OUR FUTURES

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プロジェクト 「 福山未来共創塾2018

から投稿されました。

2018年11月10日開催
11/10セッション:福山未来共創塾開催レポート 

11月10日、第3回福山未来共創塾は、「人」がテーマでした。

 未来を創る、まちづくりをするとなると、どうしても「何かをやる」ことに意識が行きがちです。参加者の皆さんも「マイプロジェクト」を記入してもらっていることもあり、基本的に「やりたいこと」がある人ばかり。
 その時に「人」にフォーカスすると、どんなことが起こるのでしょうか。
 セッションの企画設計とファシリテーターを務める小野眞司氏は「新しいこと、違うことにこだわってください」と冒頭で呼びかけています。

「今日は、これまで考えてきた『やりたいこと』はひとまず置いておきましょう。そのうえで、『人』にフォーカスし、『新しいこと』『違うこと』にこだわって考え直してみます。それによって今までの考えが変わっても、もちろんいい。変化を恐れずに、自分が変わる勇気を持って臨んでくだい」(小野氏)

 この日は、開場する1時間も前からポツポツと参加者たちが集まり始め、第2回の共創塾の結果を持ち寄ってミーティングする姿も見られました。
参加者の8割がリピーターで、初参加は2割ほど。新顔も交えながら、いつもよりも高い熱量を持ってセッションがスタートします。


■対話で未来を築け 

 セッションは、まず恒例となった「3分で10人と自己紹介」でスタート。

「頭を動かすにはまず体から」という小野氏の言葉で、一斉に会場に散らばり自己紹介をしあいます。これで程よく頭も体のほぐれたところで、小野氏から福山未来共創塾の趣旨、そしてどのような方法で未来を創造しようとしているのかの説明がありました。

 現在の地点から未来を構築するのではなく、「ありたい未来」を想定し、そこから現在に立ち返って、その未来に向かってできることから始めていく「バックキャスティング」という思考法を取ることや、異なった人々の意見を自分のものとしていくために議論ではなく「対話」という手法を採っていくことなどの解説がありました。 

 そして、ウォーミングアップ的に、ペアで「2050年の未来社会に向けて、みんなと考えたい視点は?」というテーマで、一方が語り、一方が聞くというワークを実施。
2分で交代し、2セット行いました。

「自分の考えを知らない人に話してアウトプットしてみると、意外と『こんなこと考えていたんだ』と自分でも気づくことがあるはずです。また人の意見も聞くことで、自分の考えにも変化があるでしょう。相手を知ることで自分を知り、新しい価値を生む。これが対話のやり方です」(小野氏)

 対話を通して新しい価値を生む。その体験を踏まえて、いよいよワークは本格化していきます。


▼具体的な「顔」は強い影響力がある 

  繰り返しになりますが、今回は「人」にフォーカスしたワークを進めます。なぜ「人」なのか、その理由は追々明らかになっていくでしょう。まず参加者が取り組んだのが、「一番幸福にしたい、笑顔を見たい人は誰?」を考える個人ワークです。

「プロジェクトを進めるための対象者 を決める作業です。誰を一番幸せにしたいのでしょうか。できるだけ具体的に、その人の顔を思い浮かべて考えてください」(小野氏)

  ここでは、言葉ではなくイラストやマンガ的に表現することが求められました。
「絵なんて描けないんだけど」「イラストなんて勘弁してよ」という声があ ちこちから聞こえてきます。しかし、しぶしぶペンをとった参加者たちも次第に熱が入っていき、最後には「どう? よく描けているでしょ?」とカメラマンに見せるほど力が入ります。
 絵を描くという作業の楽しさももちろんありますが、「何のために」=「誰のために」明るい未来を創ろうとしているのか、根源的なところに立ち返ることができたに違いありません。
 そして、その顔を持って会場を取り巻くようにぐるりと丸く並び、「グループ」を作ります。


「これはチームではなく、『グループ』です。これからのワークで、途中で変わってもいいし、離脱してもOK。似ているな、近いなと思える人、納得できる人と集まってグループを作ってください」(小野氏)

 小野氏の呼びかけで、お互いに誰を対象にしているのかを確認しながらそろそろと集まり、グループになっていく参加者たち。おおまかには、「子ども」「女性」「家族」「人生の転機を迎える人」「子ども(家庭)」「自分」「社会的弱者」「高齢者」の8グループに分かれました。


▼「人」から「未来」と「現在」を見通す

  次のワークは、グループごとに対象となる「人」の「顔」の輪郭をさらにくっきりさせていく作業です。 







「例えば『家族』だったら、家族の中の『誰』なのか、ちゃんと顔を思い浮かべられる人にしましょう。性別、年齢、家族構成、ファッション、仕事、趣味、性格、口癖などなど、なんでも書き出して、その対象の姿を掘り下げましょう」(小野氏) 

 グループで1人の顔を決め、10分ほどかけてより具体化していく作業です。その作業を見るとこんな具合。

「80代女性、市の中心部の住居だが、1人暮らし。仲間作りをしたいといつも思っている。ウォーキングをしている。幸せを分け与えたいと思っている」

 「一男一女を持つ35歳主婦、仕事は辞めて旦那の稼ぎで暮らしている。友人は近所付き合いのみ、市内のマンションで暮らしている」

「60~70代の男性、身内はいるが一人暮らし。近所で付き合いがあまりない、人見知りで、健康不良で悩んでいる」

 こうした特徴をひとつずつ付箋に書き出して、イメージを具体化させていくのです。

「60~70代の女性」の対象像を見た小野氏は「これは幸福にしがいのある人物像ですね」と笑顔を見せていました。
同時に、「なぜその人を選んだのか」の理由も付記します。

 そして、2ラウンド目のワークでは再びイラスト。「その人が笑顔になっている姿を想像して描く」という作業です。

「笑顔を描いて、そこに、なぜ笑顔なのか、どうして喜んでいるのかがわかるように、セリフを書き込んでください。2050年に向けたプロジェクトが成功した結果として笑顔になっているとしたら、その人はどんなふうに笑って喜んでくれるでしょうか。想像してみてください」(小野氏) 

 さすがに2度目ともなると手慣れた様子でイラストを描いていく参加者の皆さん。もしかしたら、それは一般的な意味での「上手」ではなかったかもしれません。しかし、真情のこもった絵であり、その描かれた笑顔は、誰が見ても間違いようのない、確かな笑顔であるのでした。「絵を描く」とは、原始の昔に「わかりやすく伝える」ために始まったものであることを改めて教えくれるワークで感動的ですらありました。

 このワークは、ある未来創造の手法をアレンジしたもので、課題意識の本質的な部分が整理できるうえ、具体的な議論をする土台を構成するもの。

「これがしっかりできれていれば、その後のワークも充実したものになる」と小野氏は解説しています。


 そしてワークの3ラウンド目として、逆に「現在はどうなのか?」「今の課題は何か」を浮き彫りにするための作業に取り組みます。ここでもイラストです。


「今度は、悲しんでいる顔、困っている、怒っている、悩んでいる姿で描いてください。そしてその時に、その人はどんなことを言っているでしょうか。またセリフを書き込みましょう。そして、なぜそう言っているのか、その理由も考えてみましょう」(小野氏)

 そしてできたのが、下の写真のような対比です。さあ、どうでしょうか。笑顔をもたらすために、誰に何をすればいいのか、なんとなく見えてくる気がしませんか……?


   

  ▼いよいよ本番、プロジェクト創出へ 

 休憩を挟んで、共創塾もいよいよ後半です。休憩の間に、参加者は他のテーブルを見て考察を深めています。もちろん移動も自由ですが、この時点での移動や離脱はありませんでした。

 後半の冒頭は、アイデアを出すためのブレインストーミング(ブレスト)です。模造紙の左下に「困った顔」を置いて、右上に「笑顔」を置きます。そして、その「困った顔を笑顔にするためにはどうしたらいいのか?」のアイデアを出し合います。しかもこれがまた超高密度のブレスト。

「困った顔と笑顔の間にあるこのギャップを、どうやって埋めたらいいでしょうか。そのアイデアを皆さんに考えてもらいます。しかもこれは数が勝負。10分間で最低でも50個のアイデアを出してもらいます。もし50個に足りなければ、時間を延長してできるまでやります!」(小野氏)

 もちろんブレストでアイデアを出すにはコツ、秘訣があります。

「出されたアイデアを検討したり判断したりするのは後。言葉尻を気にしないこと。とにかく出し続けること。本心じゃなくてもいいからアイデアを出すこと。人のアイデアに乗っかって、逆転させたり、真似したり、広げていくのもOK」(小野氏) 



 

 小野氏のアドバイスも受けて、ギャップを埋めるべくアイデアを出す参加者たち。実は1回では50個出しきれずに1回だけ延長しましたが、見事にたくさんのアイデアを出し切ることができました。

 プロジェクト創出のワークは続きます。この後、出された50以上のアイデアを分類し、類型化→類型化されたアイデアのグループにタイトルを付けるという作業に取り組みました。このタイトル付けされたアイデア群が、この後考える「プロジェクトのタネ」になるのです。 


 

 小野氏は、グループ間の関係性も考えること、タイトルを考えるときには対象者のことを考えるようアドバイス。

「タイトルは“ユニークなもの”を付けることを意識しましょう。タイトルを付けるときは、対象者がどのような状況で、どんな心情になるのか。そういうことを思い浮かべるといいかもしれません」(小野氏)

 そのアイデア群が、どのような価値を持ち、どのような作用をするのか。具体的なイメージを持つことで、タイトルも具体的になり、この後のプロジェクト化の役に立つものに仕上がっていくのです。

 そして、いよいよ、「プロジェクトのタネ」となるものを抽出していきます。これを小野氏は「コンセプト化」と呼んでいます。

「タイトルをつけたアイデア群を組み合わせたり、位置を変えたり、要素をずらしたりして、コンセプトを作ってみてください。1人で何個でも作ってOK。そのひとつひとつがこの後考えるプロジェクトのタネになるはずです」(小野氏)  


 

 ここで言うコンセプトとは、そのアイデアが課題を解決する際の核になる考えです。「何をどうするのか」「どのようにするのか」という、5W1Hの「What」に該当するものです。このコンセプトがたくさんあるほど、この後立案するプロジェクトも豊かで多様なものになっていくのです。

「ここまで対象に対する洞察がしっかりできていれば、コンセプト化もしやすいのではないか」と小野氏。
 中には悩み、思うようにコンセプトを書く手が進んでいない参加者もいましたが、確かにスラスラと書き出している多くの参加者の姿も見ることができたのでした。


▼チームビルド、そしてプロジェクト立案

 ここまでは、暫定的に同じ方向に沿ったグループで作業してきましたが、ここからは後々までプロジェクトを運営する本当の「チーム」になる必要があります。
10分ほどテーブルを巡回し、チームビルディングの時間を取りましたが、結局、すべてのチームがグループのメンバーをそのまま継承する形で成立しました。 


 各チームでは、ここから30分かけて、コンセプトからプロジェクトを1つ決定し、「プロジェクト構成シート」「プロジェクト基本シート」「アクションプランシート」の3枚に記入し、プロジェクトを具体化、明確化していきます。

 小野氏はまず「構成シート」の記入から始めることをアドバイス。
「今日の終わりまでに、プロジェクトのファーストアクションを決めるところまで進みたい。そのためには、まず、構成シートの『プロジェクトに必要なリソース』『必要なステークホルダー、人材』を整理することが大事です。プロジェクト実行のために何が必要か、誰にアプローチすればいいのかが見えてくるはず。やるべき調査も分かってくるでしょう。つまり、ファーストアクションに何をするべきかが、はっきり出てくるのがここなのです」(小野氏)

 最後のこのワークが、参加者が一番苦労したところかもしれません。例えば、もともとマイプロジェクトとして持ってきたものと、まったく違ったプロジェクトが立ち上がってきてしまった人は、「人」を起点にした途端に、こんなにも「やりたいこと」の方向性が変わってしまうことに、首をひねります。 


「確かに、対象は同じだったのに、どうしてこういうプロジェクトになるのか、不思議だ」というのです。それは否定しているのではなく、アプローチの方法が変わることで、こんなにも変わることへの純粋な驚きだったようでした。

また、別の参加者は、前回でスタートさせたプロジェクトとコラボさせることに腐心していました。リンクさせることがマストではありませんが、自分の身体はひとつだけ。できたらどちらのプロジェクトも実行まで持っていきたい。そんな思いにかられてのことだったのかもしれません。


▼8つのプロジェクトが成立

 すっかり日の落ちた会場で、今回も最後にまとめたプロジェクト、ファーストアクションを発表して終了となりました。発表されたプロジェクトは以下の通りです。

1)そうだ、寺子屋へ行こう
 :空き家などを使った、子ども向けの地域交流、世代間交流を提供する場の構築。

2)ローズハッピー
 :社会的機能を果たす地域通貨を導入した福祉従事者への新しい報酬システムの構築。

3)2050年の自分
 :高齢者に、身の回りにある「危険箇所」を調べて送るという役目を担ってもらう。

4)キラキラ女子
 :主婦が人生を楽しむための様々な仕掛けをまちの中につくり女性の地位向上~経済活動の促進を図る。

5)大学生なめんな!
 :福山での就職を希望する大学生に向けた地元のキーパーソンとの交流の場としてのゲストハウス運営。

6)ハローウォーキング(バージョン2)
 :高齢者のウォーキングを支援するマップ、休憩所=「エンジョイ、わっしょい!!」を設置運営する。

7)M1ギョーザグランプリ
 :ひたすら餃子を焼き、食べるイベントを開催し、家族間と地域コミュニティへの参加の場にしていく。

8)チーム名「福食プロジェクト」
 :地域ごと集まって男性がお雑煮を作り、食べるイベントを開催し、家庭を最小単位とする地域のコミュニティを活性化させる。


 

 発表を終えて、小野氏は「今日は内容が圧縮されていて、大変だったかと思います」と参加者を労うとともに、「始めなければ、何も、始まりません」とプロジェクトを始めるようエールを送りました。そして、これからのアクションについて、「プロトタイピング」「先駆者、利害関係者、対象者のレビューを受ける」「ビジネスモデルの検討」などのアドバイスも送って締めくくりました。


▼なぜ「人」が中心なのか?

 今回、「人」を中心にしたことで、一体何が得られたのでしょうか。その答えを端的に語っているのが、次の参加者の感想かもしれません。


 

「『誰を』という点を扱うことで、考え方やプロジェクトの中身が具体的になったように思いました。正直、人を扱うのは初めてで、すごく大変だったけど同時に新鮮で、面白かった。感じたのは、人を起点にすることで、『人』という具体性と、『やりたいこと』という抽象性の間を行ったり来たりすることができたということ。『これをしたい!』という思いを持ってきましたが、今日のワークで、違う面、異なる可能性もあることに気付かされました。きっと多面的に考えるきっかけになるんじゃないでしょうか」(男性参加者)

 この感想は、後の小野氏の解説にも呼応しています。  



 

「プロジェクトは『やりたいこと=What』を進めていくうちに、次第に『どうやってやる=How』にリソースが割かれていって、やること自体が目的化してしまい、本来つくりたかった未来とは食い違ってしまうことがあるんです。
 今日は、『そのプロジェクトが幸福にしたい人はだれか?』を具体化して考えることで、『自分がやりたいことの本質』から、様々な『やることのバリエーションと可能性』に気づいていただく場でもありました。だから、今日のアイデアやコンセプトはなかなか絞りきれないものだったと思います。しかし、今日のアウトプットだけでなにかするということではなく、後々になって、あの日のあのワークはこういう意味があったのか、と気付くことにもなるのでしょう」(小野氏)

 『人』を入り口にしたこうしたワークショップは非常に珍しいやり方です。
しかし、だからこそ、塾がめざす「未来につなぐ新しいシゴト」の中身が、深度を増した説得力のあるものになるに違いありません。

次回は、再び個々人の『やりたいこと』その源泉から湧き出ているものを再発見していくプロセスからプロジェクトの創出を考えるワークに取り組みます。


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