お父さん。って、どんなイメージですか?
仕事ばかりのお父さん、亭主関白なお父さん、お母さんに怒られているお父さん…自分のお父さん以外にも、どこかで見たことのあるお父さん像をイメージされる方もいると思います。
ちょっと残念な修飾語が付いてしまいがちな「お父さん。」ですが、本人たちは「できることなら、かっこよくありたい」、と思っているのではないでしょうか?
今回のフューチャーセッションズ未来勉強会#20は、株式会社パラドックスのブランディング・ディレクター、布施太朗さんと共に、「かっこいい、お父さん。」のあり方をテーマに、「奥さんにとっても、子どもにとっても、孫にとっても、社会にとっても、”かっこいいお父さん”とは?」という問いで、過去のお父さんの役割を知り、未来のお父さんの役割を考えるセッションを開催しました。
「父親が子どもとがっつり遊べる時期は、そう何年もない。」
企業のブランディングに携わる会社で、ブランディング・ディレクターをされている布施さんですが、oton+to(関西弁の“オトント”。お父さんと、の意味。)というメディアの編集長で、高3と中3の息子さん、中2の娘さんのお父さんでもあります。
布施さん)子どもが小さかった頃は企業でブランディングの仕事をしていましたが、ハウスメーカーやディベロッパー向けに、家の広告を作ることが多かったんです。
そこでは「家族の時間を大切に」といったコンセプトで朝の団らんをストーリー化したりしていました。
しかし、我が家を振り返ってみると、遠距離通勤していたこともあって、子どもが起きる前に家を出て、寝てから帰ってくる。自分が作っている広告とは真逆の生活で、そのギャップにすら気づいていないという状況でした。
妻に言わせると「全くの母子家庭でした」と。。。(苦笑)
しかし、息子さんとのある関わりをきっかけに、大きな気づきがあったと布施さんは言います。
布施さん)長男が鎌倉の山で毎日過ごすような幼稚園に通っていた時、崖登りが苦手で一人だけ登れないことがありました。
それで、妻から「見てやってくれない?」と言われて、休みに一緒にその山に行ったことがありました。
そのときの長男は、初めて自分のテリトリーに私(父親)がやってきたことが嬉しくて、あちこちを案内してくれました。
そして、例の崖に着いたのですが、ちょっと登り方を教えたら、すぐに登れてしまったんです。(笑)
そう、私は大したことと思っていないんです。
それなのに、翌日に長男は幼稚園で、先生や友だちみんなにそのことを報告したそうです。
私(父親)は全く大したことをしていないと思っているのに、長男はものすごく大きなことが起こったと捉えていた。。。
この違いを感じ、時間についても意識するようになっていきました。
そこで、「父親が子どもとがっつり遊べる時期はそう何年もない」、ということに気づいたんです。
これをTwitterでつぶやいたところ反響が大きく、言われて初めて気づいたという人や、もっと早くこれを知っていたら違っていたかもしれないという人もいて。
それで、お父さんに気づいてもらうためにoton+toを立ち上げ、本(父親(オトン)が子どもとがっつり遊べる時期はそう何年もない。)も書きました。
家族の幸せは家族のあり方
布施さんは、他にも「青山お父さん大学」を立ち上げて、「子育ての目的は何か?」、「父親と母親の役割の違いは?」など、「父親のあり方」について考察を深めるための講座を企画しています。
布施さん)これからやろうとしているのが、「家を建てる前にやっておくべき3つのことワークショップ」です。
家を建てる前に、「家族で大事にすることは何か、を決めること」で、いろいろなことがブレ難くなる。
そこで、家を建てる前に「家訓」を作ろうと。6、7割の人は家訓の無い家庭で育っていますが、家訓のあった家庭で育った人の9割は家訓があった方がいいと思っている。家訓を体験した人は家訓の必要性を感じているんです。
幸福度ランキングで日本は先進国の中で最下位だとか、子どもが成長するにつれて自己肯定感が低くなると言われています。
この自己肯定感には、家庭環境が大きく影響すると考えられていて、自己肯定感を高めるためには、家族のコミュニケーションが大事だと。
みんなで話し合って家訓を作ることで、「家族がどうありたいか」、「家族の良いあり方を決めましょう」、というようなことをやろうとしています。
「かっこ悪いお父さん」とは、どんなお父さんだろうか?
布施さんのインスピレーショントークからセッションに関するヒントを得たところで、アイスブレイクとして、参加者の皆さんに自己紹介を兼ねて、お父さんと自分の共通点などをお話し頂いてから、セッションに移りました。
最上さん)では、今日のテーマである「かっこいいお父さん。」を考えて行きたいと思いますが、最初に対極となる「かっこ悪いお父さん。がどういう人か?」について、グループでキーワードの洗い出したいと思います。
さっそくグループに分かれて「かっこ悪いお父さん。」に関するキーワードを洗い出したところ、「自己中心的」、「他責」、「感情が激しすぎる」、「ネガティブ」、「下品」、「頼りない」などが挙がりました。
やはり家族全体を俯瞰することができずに、自分中心で感情のままに動くお父さんはかっこ悪いということが見えてきました。
江戸、明治、大正、昭和のお父さん。は、どんな役割だったのだろうか?
次に、江戸から明治、大正、昭和と、時代の移り変わりとともに、お父さんの役割が、どのように変化してきたか、参加者全員で対話をしながら進めました。
布施さん)「江戸時代では、なんのために子育てをしていたか」、というと、労働力であり、家督を継ぐ者を育てるため。つまり『家を継いでいくこと』が一番大事だったわけです。
それが、明治になって福沢諭吉が『社会に出る人間を育てるため。』という言い方をし始めました。
今でこそ、「子どもを育てて自分自身も成長するという考え方」がありますが、そういった考え方はヨーロッパ的で当時の日本にはありませんでした。
最上さん)なるほど。それでは、江戸〜明治を経て、大正〜昭和の父親やおじいちゃんたちの役割はどのように変化をしたのでしょうか?
Aさん)威張っていて、生活の礎は俺が守っているんだという感じ。
Bさん)お母さんがお父さんを立てていて、亭主関白なイメージ。
Cさん)お父さん像の良い例がサザエさんの浪平。
といった大正〜昭和のお父さんの役割としてイメージされる像が、いくつも挙げられました。
そして、布施さんから一言、まとめの言葉を頂きました。
布施さん)戦後の昭和のお父さんは、『会社勤めで出世すること』が家族に対する役割でした。
子育ては完全にお母さん任せで、俺の役割ではないという「他責」になってきましたね。映画やドラマにもそんなシーンが増えていたと思います。
江戸時代にも参勤交代や単身赴任がありましたが、教育の責任者は父親でした。完全に放棄していたのは昭和。父親日本を成長させていこうという空気感がそうさせていたのではないでしょうか。
江戸〜明治時代における「家督を継ぐ、社会に出る人間を育てる」という役割から、大正〜昭和では「会社務めで出世する」という役割に大きく変わったことがわかりました。
お父さん。という存在が、時代と共に変化してきているため、「かっこいい、お父さん。」もその都度変化してきたのでしょうね。
では、令和のお父さん。の役割は? そして、未来のお父さん。の役割はどう変わっているだろうか?
最上さん)では、令和になって、現在のお父さん。は、どんな役割でしょうか?
Dさん)今の時代は、子どもを育てるというよりも、誰に対してもサポーター的な役割が求められている感じがします。
Fさん)「○○くんのパパはお皿洗ってるよ」と言われて、そうするのが当然という空気がありますね。
最上さん)昭和は、出世を通じて家を支えるという役割から、少しよくわからない存在になりましたね。布施さん、昭和〜平成〜令和で、お父さん。は、どんな変遷を遂げられたのですか?
布施さん)やはり前の世代の父親の影響はあります。30~40年前の価値感が残ってしまっていますね。
自分はお皿を洗っているけれど、お父さんはやっていなかったから、どこかでやらないものだという感覚がある。皆さんも自分が感じているお父さん像やお母さん像は、自身のお父さんやお母さん、おじいさんおばあさんなどの価値観に影響を受けていると思います。
なので、家族における価値観は、世の中の流れからは少し遅い感じがしていますね。まだ、昭和の頃に子ども時代を過ごした私たちの親世代の価値観が残っていると思います。
最上さん)ありがとうございます。では、江戸〜明治〜大正〜昭和〜平成〜令和という流れでお父さんを捉えて来て、未来のお父さんはどんな役割になるのか?ということについて、対話をしましょう。仮に未来の時間軸を決めるなら50年後と設定してみましょうか。
Gさん)お父さんの役割がさらに明確でなくなり、家族がプロジェクトチームのようになる。
Hさん)子育てに関するタスクを分担して、外部リソースを活用するようになる。
Iさん)子どもが興味を持った大人を紹介する、コミュニケーターのハブの役割。
Jさん)お父さんはAIがやってくれるけれど、趣味がお父さんという人が出てくる。
といった、意見がありました。
世の中の変化とともに、お父さん像もこれから大きく変わっていくことが予測されました。
「かっこいいお父さん」になるためには?
最後に、こんなアクションを増やしていったら「かっこいい、お父さん。」になれるのではないだろうか、ということを、参加者の皆さんと共有しました。
布施さん)私は、自分中心の完全に裏返しが、かっこいいお父さんのベースだと思います。
例えば、奥さんと外出するのに、自分を貫いて超ダメージジーンズを履くのではなくて、、、(笑)
こういう恰好をしてくれたら一緒に出かけたいというような恰好をする。
どれだけ自分を無くせるか、というのはかっこいいのではないでしょうか。と私は思います。
参加者の方々からは、以下のような声がありました。
Aさん)自分を変えていく。かっこいいお父さんになれるチャンスは自分にある。
Bさん)気前よく行動していきたい。
Cさん)かっこいいお父さんについて、妻と意見の擦り合わせをする。
Dさん)夢中になっていることや、夢を家族に語れることがかっこいい。
一人ひとりのお話を聞いていると、「それ、かっこいいな」と思うものばかりで、とても良い時間となりました。
かっこいい、お父さん。について考えた、今回のセッション。
終わってみて、参加者の方から「お父さんの役割を意外とよく知らなかった」という声がありました。改めて、過去を知り、現在に至るまでの変化を知ることで、未来に仮設を立てられるようになる。
そして、その未来に仮設を立てたことで、現在の自分と照らし合わせて、少しでも自分がなりたいかっこいい、お父さん。へ向けたアクションが考えられました。
今日の時間をきっかけに、何かを変えてみたり、一歩を踏み出してみる。参加者の皆さんにとって、そんな時間になっていたら嬉しいですね。
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【インスピレーショントーカー】
布施 太朗(ふせ たろう)
株式会社パラドックス ブランディング・ディレクター
oton+to 編集長
リクルートを経て、パラドックスに入社。2010年より父と子遊びサイトoton+to編集長、2014年朝日おとうさん新聞oton+toJOURNAL創刊。2016年著書「父親(オトン)が子どもとがっつり遊べる時期はそう何年もない。」を出版。紀伊国屋書店、文芸話題の書で1位、amazon売上ランキング子育て部門1位を記録。発売1ヶ月で3刷となる。2016年度より公立中学校PTA会長。「子どもとがっつり、遊べる時期はそう何年もない」「オトンから面白がろう」をコンセプトに、WEBサイトや新聞での情報発信をベースとした、親子コミュニケーションツールの開発、家族をテーマにした執筆や商品ブランディング、などを行っています。
【ファシリテーター】
最上 元樹
株式会社フューチャーセッションズ イノベーション プロデューサー
青森県藤崎町 地域共創アドバイザー
2015年グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。 2002年に文房具事務用品メーカーのエーワン株式会社に入社後、営業、製品開発を経験。2010年から3M Japan Group 文具・オフィス事業部のマーケティングにて、事業戦略やマーケティング戦略立案を主導したのち、2016年1月フューチャーセッションズに入社。 大手企業のイノベーションプロデュースを中心に活動し、現在に至る
株式会社フューチャーセッションズ
https://www.futuresessions.com/
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【文・杉村彩子】
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