皆さんは、VR(Virtual Reality:仮想現実)の世界を体験されたことがありますか?
近年ではハードウェアの市場価格が安価になり、一般の人でも気軽にVRを体験できるようになってきました。
第9回目となる「フューチャーセッションズ未来勉強会」は、株式会社Synamonの武井勇樹氏をゲストに迎え、「デジタルコミュニケーションの未来〜VRハイタッチ体験を通じて考える VRコミュニケーションの可能性とは?〜」というテーマでセッションを行いました。
実際に体験してみることから、VRが普及することによるオンラインコミュニケーションだけでなく、リアルコミュニケーションがどのように変わっていくのか、を考えました。
本レポートでは、そのセッションの一部をご紹介します。
VRコミュニケーションに注目する理由
株式会社Synamonでは、VRを主軸としたプロダクトをビジネス領域に事業展開しています。2016年に「オンライン対戦型マッチングゲームをつくろう」と会社が設立されましたが、その頃はまだVR対戦のマッチングそのものが起こらないような社会環境状況だったため、まずはVRを世の中に広めてマーケットを大きくしないことには事業が成り立たないと感じたそうです。
武井さん)
「VRが活用される領域は、医療、教育、研修など増えてきていますが、とくに製造業や不動産など3DCGを扱う業界と相性が良く、VRコミュニケーションが広がってきています。ただ、現状のVRは一人で体験するものが多く、"面白いだけで継続性が無い”という状態です。」
「Synamonとしては、毎日スマホを見るのは、SNSやラインをやり取りするといったコミュニケーションツールである、という背景から、新たなコミュニケーションの手段にVRが使われれば、より継続性のあるものになり得るのではないか、ということから、VRコミュニケーションの領域に注力をしています。」
株式会社Synamonが提供する「NEUTRANS BIZ」は、VR空間で資料や映像などのビジュアルデータを共有しながら、会議やブレストができるSaaS型のサービスで、様々なコラボレーション、コミュニケーションを実現しています。
遠隔会議に使用されることで主に移動費のコストカットが話題になりがちですが、リアルを超える対話で、現実世界より面白いアイデアが出たり、生産性が高くなったりすることを目指しており、新しいコミュニケーションの可能性を探索しています。
そもそもVRとは何か?
武井さん)
「言葉としては、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)と分かれていますが、概念としてはどれも近く、バーチャルとリアルの比率が変わっていくイメージです。」
「VRはバーチャル100%。リアルの中にバーチャルの情報を50%ぐらい乗せていくのがARとMR。VRとARは別物とされることもありますが、本質は近いもの。全てデジタルの情報としてしまうか、リアルの中にバーチャルな情報を入れていくかの違いで、将来的には一緒になってくると言われています。」
最終的には、脳をいかにだまし、現実と錯覚させるか。人間は目から得る情報が大きいので視覚が注目されますが、その他の感覚が影響することもわかっています。
例えば、VR空間でジェットコースターのような乗り物に乗っている時に、前から強風を当てると没入感が全く違います。視覚と聴覚、嗅覚、触覚などの情報を組み合わせて、どう脳をだましていくかが今後の課題と言います。
VRを体験してみる
ここまでの武井さんのお話を踏まえて、さっそくVR体験に入りました。
参加者の皆さんも、本格的なヘッドセットを付けたVR体験は初めて。最初は動きもぎこちなく戸惑っていましたが、徐々にVR空間に慣れてきた様子でした。
今回はVR会議を体験してもらいましたが、リアルコミュニケーションと比べた場の共有度合いや、VR空間に入ることで得られる圧倒的な情報量に驚き、『楽しすぎて会議にならない!』という声も。
VRコミュニケーションにはどんな可能性があるだろうか?
実際に体験してみると、VR会議にとどまらず、様々なコミュニケーションに使える可能性があるのではないかという感想が出てきました。
フューチャーセッションズ 有福)
「どんなところまでVRの使い方を広げて行けると感じましたか?」
参加者Aさん)
「VRコマースがありますが、VRメルカリ(CtoC販売)もできるのではないでしょうか。現状のメルカリでは写真に写っていないところが気になるけれど、アプリで360度撮影すれば全て見ることができそうです」
武井さん)
「VRの良さに『共感のしやすさ』があります。被災地や難民キャンプの映像などをVRで見ると、募金の額が上がる傾向がありますが、これは"自分ごととして共感するから"です。もしVRで宗教の世界観を作り込んでしまったら、洗脳まで行かずともそういった危険性はあるでしょう」
フューチャーセッションズ 芝池)
「製品の体験プロトタイプは、バーチャル空間のほうが良いかもしれませんね。持った時のサイズ感などが、とてもわかりやすい。実際にリアルのプロトタイプを作るのが大変な製品(家、家具、車、工場、公園など)には、かなり使えると思います。また、VRであれば拡大・縮小もできるので、改善案も浮かびやすいですね」
武井さん)
「プロトタイプについては、感触の再現方法についても研究が進んでいます。人間が触覚を感じるのは最終的には電気信号になって脳に送られているので、最初から脳に電気信号を流して触った感覚を再現するといった方法です」
フューチャーセッションズ 芝池)
「別途、私たちがファシリテーションをする時に、人の表情やしぐさから感情を読み取って働きかけることがありますが、"VR空間で人の感情の機微をどう受け止めるのかが課題かもしれない"と思います。教育分野では、モチベーション管理をすることに価値があると考えられていますが、VRで知識の習得だけはできでも、感情については、人が丁寧に感情を読み取らないと難しいこともあると感じました」
武井さん)
「最後に何がリアルの価値として残るのか、は興味深いですね。音楽がデジタル化されて手軽にダウンロードされるようになり、むしろリアルのライブの価値は上がりました。バーチャルではなくリアルでないといけないものは何なのか、というリアルの価値が再定義されていくことは、とても面白いと思います」
VRによってコミュニケーションはどう変わるか?
VRコミュニケーションの可能性についてアイデアを出し合う中で、VRの課題やリアルコミュニケーションの価値も見えてきました。さらに、これからVRによってコミュニケーションがどう変わっていくのかについて議論を深めました。
フューチャーセッションズ 有福)
「VRでは追体験がしやすそうですね。3D空間の中に入るので、一体感や場を共有してより共感が高まるのではないでしょうか」
武井さん)
「インターネットによって、世界中で情報を共有できるようになりましたが、まだ共有できていない"体験の部分"をVRは可能にしていきます。インターネットとリアルの狭間に、新たにVRやバーチャルといったレイヤーができるイメージですね」
フューチャーセッションズ 有福)
「実際には行けない”未来や過去、存在し得ないSFやファンタジーのようなシチュエーションを体験すること”もVRなら可能ですね」
武井さん)
「VRをどう体験するかではなく、リアルな体験をVRを使ってどうプラスにしていくか。実際にアンコールワットに行ってVRを着けて1000年前の同じ場所を体験すると、より没入感が増すはずです」
「VRは目的では無く手段です。これからは新しい手段の一つとしてVRのコミュニケーションが確立されてくると考えています」
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まだまだ進化の途中にあるVRコミュニケーション。今回の勉強会では実際に体験したことで、VRの良さや問題点、改めてリアルコミュニケーションの重要性を再確認することができました。
次回の第10回未来勉強会は、調査やリサーチの専門家である株式会社ジャートムの光成氏をゲストにお呼びし、「事業創造における情報収集と活用の仕方(基礎編)/事業をカタチにするためのリサーチとは?〜」について一緒に考えていきます。
ぜひご興味のある方は参加してみてください。
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【インスピレーショントーカー】
武井 勇樹(たけい ゆうき)
一橋大学商学部を卒業後、IT系ベンチャー企業の株式会社Speeeにて、Webマーケティングのコンサルティングや新規事業立ち上げに従事。
その後、イノベーションの最先端であるシリコンバレーでビジネスを学びたいと考え、UC Berkeley Extensionに留学。在学中にYコンビネーター出身のスタートアップでインターンを経験。VRの可能性に惹かれ、VRを用いたイノベーションを起こしたいという想いでSynamonに入社。現在は事業開発や広報といったビジネスサイド全般のマネージャーを担当。
【ファシリテーター】
有福 英幸(ありふく ひでゆき)
株式会社フューチャーセッションズ シニアマネージャー
大手広告会社にて、企業のブランディングやデジタルコミュニケーションに従事。デジタルクリエイティブの新しい表現に挑戦し、CannesやOneShowなど国内外の広告賞を多数受賞。またサステナブルな社会を目指すwebマガジンを発刊、編集長として運営を手掛ける。メディアの知見を活かし、より社会的なインパクトを創出すべく、フューチャーセッションズを設立。関心領域は、エネルギー、食。
つくりたい未来:次世代が今よりもよくなる可能性を感じられる社会==================================================================
【文・杉村彩子】
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