Tポイント・ジャパンに学ぶ。
地域をより良くする「ソーシャルプロジェクト」とは?
近年、CSV(Creating Shared Value)への注目が高まっています。CSVとは、社会課題を企業のビジネスリソースを使って解決し、新たな事業創造にもつなげるという、三方良しの経営モデル。
日本では地方創生ブームも相まって、地域課題の解決をテーマに据えてCSVに取り組む企業も増えています。
そんな中、おなじみのTカードを運営しているTポイント・ジャパンは、Tカードの顧客データやインフラを活用して、地域の様々な課題解決を目指した『Tカード みんなのソーシャルプロジェクト』を2016年よりスタートさせています。
第7回となる「フューチャーセッションズ未来勉強会」では、同プロジェクトを推進する株式会社Tポイント・ジャパン 総合企画室 プロデューサー 瀧田さんをゲストに迎え、『地域をより良くする本質的な価値(アクション)とは?』というテーマを探求する対話を行いました。※フューチャーセッションズ 未来勉強会#07
「地域課題を解決するために、企業ができることは、何か?」
「社会貢献を通じつつ、自社のブランディングにもつなげるには、どんなことが必要か?」
など、企業が地域貢献する上で大切にすべき知見が多く得られる、示唆に富んだ対話の場となりました。
本レポートでは、その場でシェアされた学びや、未来の兆しをハイライトでお伝えします。
▽勉強会の参加者には、企業のCSRとして地域課題の解決に取り組もうとしている企業担当者や、製薬会社でプロジェクトマネジメントをする傍ら、ソーシャルイノベーターとして活躍する方、デンマークのカオスパイロットで学びながら、地方でジビエプロジェクトを立ち上げた方、ITを活用した教育プログラムを企画する職員の方など、多様なバックグラウンドを持った方々が参加。
Tカード みんなのソーシャルプロジェクト、始まりのきっかけ
まず最初に、瀧田さんが担当している『Tカード みんなのソーシャルプロジェクト』がスタートしたきっかけや、その概要、実施して得られた成果について、インスピレーショントークをして頂きました。
瀧田さん:
「Tカードは、2016年に日本の2人に1人に相当する、6000万人に持って頂けるようになりました。
これまでは、Tポイントから得られる年間50億件のビッグデータを、企業のマーケティングのお手伝いとして使ってきました。
ですが、そろそろそのデータを社会に還元していくこともやってはどうか、と社内へ提案して、『Tカード みんなのソーシャルプロジェクト』が始まりました。
テーマについては「社会課題を解決するために、Tカードのインフラを活用していく」といっても、かなり幅広い範囲になりますので、「地域」を設定しました。
なぜなら、アライアンス企業様の支店は全国津々浦々にありまして、Tカードも地域と共に成長してきたブランドなので、地域共生にフォーカスしてソーシャルプロジェクトを取り組んでいったというスタートになります」
そうして2016年11月に始まった「Tカード みんなのソーシャルプロジェクト」。
これまでに3つの地域との共創プロジェクトが行われています。インスピレーショントークでは、3つのプロジェクトストーリーを瀧田さんからお話を頂きました。
ここでは、それぞれのプロジェクト背景や概要について、下記に簡単にまとめ、それに続けて3つの地域との共創プロジェクトで得られた知見についてご紹介します。
Tカードが挑戦する3つの地域共創プロジェクト
地域との共創プロジェクトの1つ目は、
「“とびきりの魚介好き”のT会員と東北・三陸の漁師による、牡蠣の商品開発プロジェクト」です。
Tポイント・ジャパンは震災直後から東北支援を実施してきましたが、震災から5年が経った2016年当時も、東北・三陸の漁業は震災前の6割ほどしか売り上げが回復していませんでした。
また、三陸は牡蠣が有名でしたが、これまで生牡蠣としての販売が一般的だったため、6次産業化がそれほど進んでいなかったという課題がありました。
そこで、三陸の牡蠣の商品化をTポイント・ジャパンが支援。T会員6,000万人の中から選ばれた、とびきり魚介好きの消費者9人と、東北の漁業を盛り上げることを目的とした若手漁師の団体「フィッシャーマンジャパン」がコラボして商品開発を実施。
商品開発のフューチャーセッションを通して、最終的に2品(「カレーとガーリック味の大きなカキフライ・パセリとチーズ味の大きなカキフライ」と「牡蠣とバジルのオイル漬け」)が商品化。2017年10月に販売が開始されました。
取り組みはメディアにも取り上げられるなど反響もあり、企業のブランディングにも寄与する成果が得られたといいます。
(参考:T会員のビッグデータを商品開発に活用--第1弾は三陸のカキ)
−−−−−
地域との共創プロジェクト、2つ目は、
『消費者・生産者・流通の3者共創による、長崎県・五島の魚 商品開発プロジェクト』です。
長崎県・五島列島は、高級魚類が取れることで知られた魚の名産地。
しかし、現地へのヒアリングを通じて、定置網に引っかかるものの、売れずにそのまま海に返してしまう未利用魚が一定数存在することが課題であると分かります。
そこで、魚介好きでグルメなT会員(消費者サイド)、地元漁師や加工メーカーといった生産者、魚の販売を行う流通サイドの3者の共創による、未利用魚の商品開発セッションを実施。
現在、商品開発のフューチャーセッションを経て誕生した、6つの未利用魚の活用レシピを、工場で製品化するフェーズまでプロジェクトは進んでいます。
−−−−−
そして、地域との共創プロジェクト、最後の3つ目は、『子どものアートづくりをTポイント寄付で支援した、Reborn-Art Festival×Tカードプロジェクト』です。
震災後の東北は、建物や交通インフラなどのハード面の復興など、緊急性の高い課題への復興支援が大半でしたが、徐々に子どもが東北や自分自身の将来に希望を持てるような教育支援が求められてきました。
そこで、食と音楽とアートの力で、震災後の東北の復興を目指した「Reborn-Art Festival」と、Tカードがコラボレーション。
子どもがつくりたいアート作品の制作費を、T会員のポイント寄付によって賄い、みんなで東北の子どもたちを応援するプロジェクトを実施。
取り組みは3年目に突入し、いまもプロジェクトは継続中です。
地域住民の「やりたい」がすべての起点に
それぞれのプロジェクト概要が瀧田さんより紹介された後は対話セッションへ。参加者から各プロジェクトに対する疑問や意見が投げかけられます。 まずはじめに参加者から投げかけられた問いは 「牡蠣の商品開発プロジェクトは最終的にどんな結果だったのか?」というもの。
瀧田さん:
「商品開発を経て生まれた、『カレーとガーリック味の大きなカキフライ・パセリとチーズ味の大きなカキフライ』は、結果的には全店舗で売れました。
また、Yahoo!ショッピング内の牡蠣・加工食品というカテゴリでは、発売後4ヶ月ほどで380件の中で1位になりました。それなりに評価してくださるコメントも集まっていて、欲しい人も多く、EC上では売れていくスパイラルができています」
瀧田さん:
「ただ、現段階では、追加で商品を作るか、継続的な定番商品にしていくかは、まだわかりません。 なぜなら、三陸の牡蠣の売り上げの中で、今回開発した商品の売り上げってまだそんなにインパクトがないんです。 私は定番商品にできたらいいと思っているし、でも結局、開発した商品を継続して売っていくかを決めるのは三陸の皆さんなので、まだわからないという状況です」 今回コラボレーションした主体が本業の多忙な漁師団体だったため、彼らの中でプロジェクトに多くの時間を割くのは難しかったと瀧田さんは話します。 たとえそれなりの売り上げを生んで、地域貢献につながる成果を出せたとしても、続けるのもやめるのも、決めるのは地域。地域共創の難しさを感じさせるエピソードです。
通信会社 Bさん:
牡蠣の商品開発プロジェクトは、予定よりも半年ほど遅れて販売に至ったとお話されていましたが、社内的に問題にはならなかったのでしょうか?
プロジェクトマネジメントを仕事にしている身としては、1ヶ月遅れるだけでも大問題になると思ってしまいます。
瀧田さん:
「もちろんいろいろと言われました(笑)。でも、やっぱりこの取り組みがあくまで地域の声から始まっているということだと思うんです。 どういう成り立ちでこのプロジェクトをやってきていて、何の意義があるのかをきちんと社内の承認を得ていると、Tポイント・ジャパンの都合だけで何かを決めたりしなくなっていくんですよね。 そもそも、このコンテンツの中身を成立させること自体がTポイント・ジャパンのブランディングにつながるという構図にしています。 そうすることで、地域の皆さんの望む形でこのプロジェクトが着地するということが、Tポイントの目標にもなっているっていう、そういう構図を作っているので社内での合意を得られたのかなあと思います」
ITアウトソーシング企業 Wさん:
社内外の沢山のステークホルダーを巻き込んで商品開発するとめんどくさいし、回りくどいことをやっているように見えます。それでもやるのはなぜでしょうか。どこにモチベーションがあるんでしょうか?
瀧田さん:
「先ほどお話したような3つの地域共生プロジェクトって、Tポイントがやりたいことをやる訳ではないじゃないですか。 「地域共生」というテーマに対して、Tポイントが何ができるか?ということ。そこで、できたこと=Tポイントのブランディングにつながるっていう方程式なんですね。 ですから、地域の方のニーズに沿って、大なり小なり、地域の役に立つ企画っていうことが大前提になります。そこがめんどくさいし回りくどく見えるわけですよね」 地域のやりたいことを実現することが、そのまま企業のブランディングにも繋がる仕組みを、いかに最初に設計できるかがプロジェクトづくりの肝だと瀧田さんは強調します。
瀧田さん:
「プロジェクト設計において大切なのは、いかに地域の人たちのニーズから企画を生み出すか。 だから東京にいて企画を作るということはまずなくて、ある程度のフレームができたらまず聞きにいく。 とにかくいろんなステークホルダーから話を聞いて、そのカケラみたいなものを掛け合わせて企画を作るので、面倒くさいのかもしれないですね。私はあんまり面倒くさいと思わないですけどね(笑)」
「聞く」に徹して、地域の中に頼れる人をつくる
製薬会社 Kさん:
課題の当事者にヒアリングすることが大切だとおっしゃっていましたが、聞く時に気をつけていることはありますか?
瀧田さん:
「なんでしょう…(笑)」
フューチャーセッションズ 有福:
「偏見を持たずにフラットに聞く、というのはあるんじゃないですか?例えば、最初から「未利用魚(※)が課題なんじゃないかな」とか仮説を立てずフラットに聞きにいくっていうこととか」
(※未利用魚…漁獲しても売れずに、海に返してしまう魚のこと。)
瀧田さん:
「フラットはあるかもしれない。Tポイント・ジャパンの人間という立場を全面に出してはあまり話は聞かないかもしれないですね」
製薬会社 Kさん:
「1人の女性として、話を聞いている感じですか?」
瀧田さん:
「1人の人間としての立場を大切にしています。もちろん地域に入る前に東京とかでもいろんな課題は聞くんですよ。 でも、東京にいて聞けることって、地元にいて聞けることと一緒かっていうと違うんですよね。地域の事情に詳しい東京の人に話を聞いてみたんですけど、実際に地域に入ってみたら全然違っていたんですよね」
フューチャーセッションズ 有福:
「瀧田さんの、分かったふりをしないところは、スゴイなって思いますね」
瀧田さん:
「地域のプロジェクトって全部、専門的じゃないですか。漁業とか、芸術とか。だからとにかく専門家に頼りまくりますよね。
五島にも、いろんな私の専門家として頼れるおじちゃん達がいっぱいいて。仲卸とか漁師さんとか。漁師さんなんかは本当に怖いんですけど、船に乗せてもらったりして、課題を聞くんですよね」
企業として地域に入ると、自分たちの知見やノウハウをどうやって地域に提供しようと、教えるスタンスで関わってしまいがち。しかし、地域のことをよく知っているのはやはり地域の人々です。むしろ、「何もわからないので教えてください」と、聞くスタンスで地域に入ると、地域の人々も心を開いて、こちらを信頼してくれ、良い関係性を築くことができるのだということが、瀧田さんのお話からも感じられます。
「課題の共有」が一体感を生む
素材メーカー Sさん:
T会員さんとか、地元の漁師さんとか、小売の人とか、いろんなステークホルダーがいると思うんですけど、そういった人同士で衝突したり、うまく場がまわらないことはなかったんですか?
瀧田さん:
「それはもうフューチャーセッションズさんですよ(笑)。ファシリテーターが、ビジョンを共有して、みんなの自分ごとにしていきながら、その場をまわしていく、っていうのは私ではなくフューチャーセッションズさんにお願いしていました」
フューチャーセッションズ 有福:
「やっぱり流通の方と生活者の方や、加工業者さんと漁師や生産者の方って、一見するとたしかに利害関係者なんですよね。流通は生活者の顔色を伺ったり、生産者側は流通のことを気にするっていう状態になると思うんです。 でも、セッションでは、問題がなんなのかを探っていくというよりは、それぞれの知見やそれぞれの立場からの意見を集めて、良いものをつくりあげていきましょうっていうベースの共通認識を揃えることが大事なんじゃないかなと思っています」
瀧田さん:
「セッションでは毎回、しつこいくらいにビジョンと課題の再確認をするんですよね。それによって、共通のゴールや課題に向かっていくための、マインドセットづくりをやっていたのかなと思いますね」
フューチャーセッションズ 有福:
「1回目の牡蠣で印象深かったのが、T会員のメンバーが作った試食品を、流通の方がダメ出しするシーンがあったんですよね。
それで、逆にT会員側が奮起して、一致団結した場面があって。だから、衝突は必ずしも悪くない。本当に思っていることを言えないっていうのがやっぱり良くないと思うんです。信頼して、本音を言い合える関係をつくるっていうのが大切だと思いますね」
瀧田さん:
「うん、そうですね。それって効率が悪いんですけど、必要なプロセスかなって思います」 ステークホルダーが多様になればなるほど、価値観や考え方も多様になってきます。そんな時こそ、「私たちはなんの課題を解決するためにプロジェクトに関わっているのか」という根本的な問いに立ち返る必要があるようです。
_______
瀧田さんのお話で終始一貫していたのは、「主役は地域である」ということ。
プロジェクトを運営し、そこにリソースを投下するのは企業側だけれど、それはあくまで地域の人たちのためになっていることが第一。企業の都合でプロジェクトを進めずに、常に地域のニーズに寄り添うことを徹底されていました。だからこそ、地域と息長く共創プロジェクトができ、結果として成果も創出できるのだと感じられるお話でした。
次回、8回未来勉強会では、
富士フイルム株式会社 UI/UXデザイナー 石垣 純一さんをお招きして、「私にとってのデザイン〜デザインとは何か?/デザインはどんな方向へ向かうのか?〜」というテーマでセッションを開催します。
ご興味のある方は、ぜひこちらにも参加してみてはいかがでしょうか。
ゲスト インスピレーショントーカー:
瀧田 希(たきた のぞみ)
株式会社Tポイント・ジャパン 総合企画室 プロデューサー
2002年株式会社カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社。Tポイントの宣伝販促業務に従事。2011年より東日本大震災被災地に子どもたちの遊び場を建築する「Tカード提示で東北の子供達に笑顔を」プロジェクトを立ち上げ、東北3県に5軒の遊び場を建築する。2016年にはTポイントのブランド担当として6,000 万⼈超のT会員基盤、Tポイントアライアンス企業ネットワーク、Tカードがもたらす約50 億件の購買データなどを活⽤して社会や⽣活者に還元、貢献をしていくT カードの社会価値創造プロジェクト「T カードみんなのソーシャルプロジェクト」を立ち上げ、以降3つのプロジェクトを実施中。
ファシリテーター:
有福 英幸(ありふく ひでゆき)
株式会社フューチャーセッションズ シニアマネージャー
大手広告会社にて、企業のブランディングやデジタルコミュニケーションに従事。デジタルクリエイティブの新しい表現に挑戦し、CannesやOneShowなど国内外の広告賞を多数受賞。またサステナブルな社会を目指すwebマガジンを発刊、編集長として運営を手掛ける。メディアの知見を活かし、より社会的なインパクトを創出すべく、フューチャーセッションズを設立。関心領域は、エネルギー、食。
つくりたい未来:次世代が今よりもよくなる可能性を感じられる社会
関連するストーリー
- VRの進化によって、リアル価値の再定義が行われる!?<株式会社Synamon 武井勇樹 氏>
- 皆さんは、VR(Virtual Reality:仮想現実)の世界を体験されたことがありますか?近年ではハードウェアの市場価格が安価になり、一般の人でも気軽にVRを体験できるようになってきました。...
- 未曾有の危機から考える これからの働き方・暮らし方 〜改めて考えたいソナエとは?<ニュートン・コンサルティング株式会社 林 和志郎 氏>
- 未曾有の危機から考えるこれからの働き方・暮らし方〜改めて考えたいソナエとは?新型コロナウイルスが全世界で猛威をふるっています。友だちとおしゃべりをしながらご飯を食べたり、会社に出勤して仕事に励ん...
- ロボットが人に「生きがい」を与える? 私たちの心まで豊かにしてくれるロボットの未来<トヨタ自動車株式会社 片岡史憲氏>
- ロボットが人に「生きがい」を与える? 私たちの心まで豊かにしてくれるロボットの未来 〈トヨタ自動車 KIROBO & KIROBO mini開発責任者 片岡史憲さん〉「AIやロボッ...
- 宇宙は遠い存在ではない! 暮らしの先にある宇宙の可能性とは?<国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA) 藤平 耕一氏>
- 宇宙は遠い存在ではない!暮らしの先にある宇宙の可能性とは? 皆さんは、「宇宙」のことを、どれくらいご存知でしょうか?宇宙では、測位信号の送信や、長距離通信の中継、気候観測などに役立つ衛星が多くあ...