いま日本で、スポーツに大きな注目が集まっています。
2019年には、ラグビーワールドカップが開催され、
2020年には、東京オリンピックが開催。
この2年間は、かつてないほど日本中がスポーツで盛り上がる年になるといえるでしょう。
第4回となる 「フューチャーセッションズ未来勉強会」は、ラグビーワールドカップ2019組織委員会で、レガシー部の部長として尽力されている本田さんをゲストに、『スポーツのある人生』というテーマでセッションを行いました。
※フューチャーセッションズ 未来勉強会#04
参加者には、
NTTコミュニケーションズ シャイニングアークスの現役ラグビー選手や、外資系IT企業の人事担当、スポーツを活用したまちづくりに取り組むハウスメーカーの方、湘南在住でサーフィンを愛する半導体メーカー社員の方など、多様なメンバーが集結しました。
そして、「スポーツが私たちに気づかせてくれたことは何か」や、「スポーツが今後、世の中にどんな価値を与えていくのか」など、スポーツが生み出す多様な価値について対話を深めた、濃密なセッションになりました。
本レポートでは、そのセッションの一部をご紹介します。
ゲスト インスピレーショントーカー:
本田 祐嗣(ほんだ ゆうじ)氏
ラグビーワールドカップ2019組織委員会 レガシー部 部長
2012年にスポーツと関係ない世界からラグビーワールドカップ2019組織委員会で大会の開催準備にスポットで関わる。一年後に開催都市の募集業務で再び組織委員会に関わる。2014年から事業の全体スケジュールと基礎計画の整備を担当。現在は新装なった東大阪市花園ラグビー場、福岡で今年創設されたアジアラグビー交流フェスタの将来にわたっての発展に取り組む。大阪府出身。
ラグビーのインパクトを次の世代へ
スポーツが「人生」にもたらしてくれるもの
インスピレーショントークを踏まえて、勉強会は対話セッションへと移ります。
テーマは「スポーツが私に気づかせてくれたこと」。
スポーツを通じて、得たことや、学んだことが話されていきます。
最初に投げかけられた問いは、「そもそもスポーツってなんだろう?」という言葉の定義について。
鷲尾さん:
「僕は、スポーツとは身体を動かして、何か相手があるものかなあと思っています」
大島さん:
「そうですね…。点数つけるとか、勝ち負けがあるものはスポーツかなぁと思いました」
篠原さん:
「実はスポーツの語源は”遊ぶ”なんです。勝ち負けとかいうことじゃなくて。
だからよく、“運動とスポーツは同じなのか?”という議論がありますが、基本的には“遊ぶ”なので、例えば散歩でもなんでも基本的に“楽しめる”のではあればスポーツと言える”んじゃないかと思います。もちろん楽しみ方の1つとして競い合うということもありますけどね」
そして、次に共有をされたのは、スポーツに実際に取り組む中で得たこんな気付きでした。
鷲尾さん:
「私が気付いたいことは、”努力ってなかなか実らない”ということをスポーツから学んだと思いました。スポーツがまさにそうですけど、大きく成長する前には『成長の踊り場』があるように、成長って一直線じゃない。
だから仕事をしていて行き詰まっても、どこかのタイミングで大きく成長することがあることを期待しながら頑張れるようになったのは、スポーツのおかげだと思いますね」
人材会社に勤務しながら、「アルティメットスポーツ」のアジア大会出場選手として、スポーツに関わられている鷲尾さん
根本さん:
「僕はスポーツから、生きる上で知るべきルールを教わりました。”世の中には、叶わないこと、努力が必ずしも報われるわけではない、不条理なこともたくさんある”、というのを「ルールのある 生死にかかわらない スポーツ」を通じて知った気がします。
それを知った若い時には、ショックだったし辛かったですが、社会に出てからもっとたくさん辛いこともあり(笑)、スポーツを通じて、そういったことを段階的に体感できたのはよかったです」
外資系IT企業の人事部の根本さん。一時期、伊勢丹で社会人ラグビーをやられていたことも
このように、スポーツをすることで、”努力の続け方”や、”現実との向き合い方”を学んだという声が聞かれました。
一方、自分自身でスポーツをやっていたわけではないが、学べたことも多くあるという意見もありました。
篠原さん:
「僕は、”やるだけがスポーツじゃない”ということに気付いて、人に教えることがとても面白いと思いました。結局それが学校の先生をやることにつながった。
人に教えてそれができるようになった時の楽しさ、喜びはものすごく大きくて。体育の教員ならスポーツにずっと関われるので、それも1つの道かなと思いますね」
大島さん:
「わたしは、自分がずっとやってたのは弓道で、そんなにどハマりしなかったんですけど、大学が明治だったこともあって、ラグビー観戦にはハマったんです。学生時代は早稲田が好きだったんですけどね。(笑)
でも卒業して母校の試合を観に行くと、明治の試合って卒業生だらけなんです。そこで、みんなで一緒に応援をするという一体感を感じて、初めて明治でよかったって思えたんですね。
わたしは、スポーツを観に行くようになってから、『一体感』や『つながり』のあたたかさに気づくことがあったと思います」
ゼネコン勤務の大島さん。明治大学に通っていた影響もあり、ラグビーファンだそうです
スポーツを教えたり観ることも「人生に大きな影響を与えてくれている」という別の側面も見えてきました。
さらに、スポーツの「付加価値」について、上井さんはこのように話してくれました。
上井さん:
「スポーツって、例えばサッカーしに行く道中、終わった後の飲み会とか、スポーツ以外の周りのことにも、めちゃくちゃ価値があって、人生が豊かになっていると思うんです。
僕でいうと、大学時代の友だちと久々に集まってサッカーをやって、結婚や子ども、仕事の相談とか色々な話をしながら、『じゃあ今度、おれたち家族みんなで旅行企画をしようぜ!』みたいなことも、勝手に動き出したりとか。
スポーツがあると人とのつながりがあるし、きっかけがあるし、総じてみると、人生が楽しくなって豊かになっていくのは、スポーツのおかげなのかなって思います」
スポーツは社会課題解決の「ツール」なのか?
次に、そんなかけがえのない気付きや学びを与えてくれた「スポーツと、今後どう関わって行きたいか」というテーマで対話は進みます。
そこで特に盛り上がりを見せたのは、「スポーツと社会貢献」の関係性について。
小林さん:
「僕はプロスポーツプレイヤーではないけれども、サーフィンが好きだからずっと続けていきたいと思っています。なので、歳をとっても、今の楽しみ方を続けるために体を鍛えるとか、自分へのプレッシャーをかけていきたいという気持ちがある一方で、もう1つには、社会貢献もしないといけないと思っています。
例えば、サーフィンがいつまでも愛されるスポーツであるために、砂浜が守られるとか、それを続けるために若い人たちに働きかけていくとか。だから、自分に対するモチベーションと、社会に対するモチベーションの両方を持ってやっていきたいですね」
湘南在住、サーフィンを愛する半導体メーカー勤務の小林さん
最上(ファシリテーター):
「面白いですね。楽しさや遊びを追求する意味でのスポーツもある一方で、社会課題を解決するためにもスポーツをやっていきたいと思うのは、どういったきっかけがあったのでしょうか?」
小林さん:
「自分の幼少期に立ち戻るんですけど、昔河口湖が好きだったんです。父親とよく魚釣りに行っていました。その時に父親が『オレが若い頃はもっと水が綺麗だった』って言うわけです。その時に思ったのは、自分が親になった時に、子供に同じこと言っちゃいけないなっていうこと。
つまり、親父が見て汚くなっている水が、自分が親の時に見て、もっと汚くなっていたら、私たちの子供が見る河口湖は親の代から見た時にとても汚くなっているわけで、それをなんとかしなきゃいけないって思ったのが原体験としてありますね」
それに対して本田さんは、こんな疑問を投げかけます。
本田さん:
「僕には社会課題の解決をスポーツでやるって、少し違和感があるんですよ。『スポーツってツールなのかな?』って思います。
現在、確かにスポーツ業界では『スポーツの力で課題解決』というのがブームになっているんですけど、数年間のブームで終わるんじゃないかなって思ってるんです。なんか、無理やり言ってないかと。『スポーツは社会貢献ですよね』って言わされていないかとも感じるんです」
「先ほど、『スポーツの語源は“遊ぶ”。だから、遊んで楽しめるものがスポーツなんだ』という話もありましたけど、スポーツ=遊びっていう捉え方が、本当は腹落ちするんじゃないかなと思います」
スポーツは社会課題の解決の「手段」なのか、「遊び」として楽しむべきものなのか、意見は2つに分かれます。
一方で、まさに仕事としてスポーツの力で社会課題の解決に取り組む上井さんはこう意見します。
上井さん:
「僕は社会課題の解決をスポーツっぽくやればいいと思っていて。つまり社会貢献を、楽しんで遊びながらやればいいんじゃないかと思ってるんです。肩肘やって真面目にやりすぎていることについて、一部の当事者の人はそれでいいと思うんですけど、それだけじゃ難しいからこそ、スポーツには楽しみながら社会課題の解決をやれる可能性があるんじゃないかと思うんです。
でも、普通の人が楽しみながら社会課題の解決をやろうと言ってもなかなか難しくて、そこにスポーツのエッセンスを入れて、アスリートとワクワクスポーツをしながら、結果的にみんなハッピーになったよね、という状態をつくることがスポーツを通じた社会課題解決という捉え方を僕はしています」
株式会社フューチャーセッションズ イノベーション・ファシリテーター 上井さん。ラグビーワールドカップ2019組織委員会やJリーグと連携し、スポーツによる社会課題の解決に取り組んでいる
そんな意見を聞き、参加者の篠原さんはこうフォローします。
篠原さん:
「僕が聞いていて思ったのは、『好きだから』ではないかと思いました。
例えば、ラグビーが好きだから、『ラグビーにはこんなに良い価値があるんだ』とか、『こんなに好きなラグビーを使って何かできることがないのか』と考える中で、ラグビーとかスポーツを社会課題の解決にも使いたい、と思うんじゃないかと思いましたね」
ラグビーワールドカップ開催準備委員会事務局長篠原さん
その捉え方には上井さんも共感。
上井さん:
「なるほど、その捉え方の方がいいなと思っちゃいました(笑)。
僕はスポーツが好きだから、スポーツをやりたいし、スポーツが好きな人と働きたいって単にそれだけなんだなって。
だから、『スポーツで課題解決』っていうのは、あんまり本質じゃなくて、スポーツ好きな人たちでもっと良いこと、面白いことをやろうよって呼びかけているだけな気がしました」
社会課題を解決するための「ツール」としてスポーツがあるのではなく、好きなスポーツだからこそ、世の中に良いこと、楽しいことをみんなでやっていきたい。
スポーツへの「好き」の気持ちが、人を社会貢献にまで突き動かす。
スポーツには人を強くモチベートするパワーがある。
そんなことが、スポーツと社会貢献をめぐる対話から見えてきました。
「好き同士」が集い、共創することで生まれる価値
そして勉強会も終わりに近づいた終盤。
ファシリテーターの最上からこんな問いが投げられられました。
「スポーツ好きのメンバーが集まったら、何か新しい価値が生まれるのでしょうか?、即興で三人の好きを掛け合わせてアイデアを出してみませんか?」
「ファシリテーション」が好きな上井さん、
「人とのつながりを築くこと」が好きな篠原さん、
そして、「スポーツを見ながらああでもない、こうでもないとコメントし合うのが好き」な本田さん
の三者で即興ブレストが行われることに。
すると間髪入れずに、
「新しい観戦ツアーを作れるんじゃないか」というアイデアが上井さんから提案されました。
「つながりを築くこと好きな篠原さんが面白い人たちを連れてきて、コメントしながら観戦するのが好きな本田さんのコメントを、ファシリテーションが好きな自分(上井)が、引き出して盛り上げるとか(笑)」
会場からは「それ面白いね!」と肯定的な反応です。
即興ブレストを楽しむ参加者の皆さん
さらに、本田さんからは
「バレーボールとか、ラグビーとか、スポーツ観戦してる人たちの、味のあるコメントを副音声で聴けるみたいなのって面白そうですよね」
と、視聴者の観戦コメントをコンテンツにした新しいスポーツ観戦の楽しみ方なども提案されました。
たった数分という短時間ながら、スポーツ好きな人たちによる共創アイデアがいくつも飛び出し、スポーツが好きな人たちがつながり合うことで生まれる力の可能性を感じずにはいられない瞬間でした。
そして最後には、参加者一人ひとりから、感想コメントを共有して頂きました。
- また明日から好きなランニングを始めたくなった
- スポーツ好きな人たちが集まることのポテンシャルを感じた
- スポーツで社会問題を解決するということの是非について知見を深められた
- 頭で難しく考えて理由付けするのではなく、「好き」というシンプルな気持ちに従って、楽しんで取り組むことの大切さを再確認した
など、それぞれ思い思いのコメントがシェアされ、「スポーツのある人生」について深い洞察や、明日からのモチベーションが得られた2時間になりました。
次回、第5回未来勉強会では、
金沢工業大学イノベーションマネジメント研究科教授 高橋真木子氏をお呼びして、「どうしたら、イノベーション促進に知財を活用できるだろうか?」というテーマでセッションを開催します。
ご興味のある方は、ぜひこちらにも参加してみてはいかがでしょうか。
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