フューチャーセッションとFabLabの共通点として、どちらも共に創り出す、コクリエーションの思想が根底にあるのではないだろうか。
フューチャーセッションも対話して終わりではなく、アイデアを具現化、見える化し、共感する人を増やすために、即興劇やサービスシナリオを描くなどの「プロトタイピング」を重視しているが、その精度を高めるに、FabLabと連携するのが良いのではないかと考えている。
そこで今回は、先月オープンしたばかりのFabLab関内の広報担当の瀬戸さんに、FabLabの思想や目指す未来について伺った。
── まずはFabLabの全体像、歴史的な背景についてお教えください。
FabLabは、デジタル工作機械(3Dプリンタやレーザーカッターなど)を使って、誰もが工作できるようになるためのオープンな施設です。
職人技とまではいかなくとも、ある程度質の高いものができます。例えば、MITには飛行機のエンジンが作れるような3Dプリンタがあります。
そもそもは、MITのニール・ガーシェンフェルド教授がインドに作った施設から始まります。
彼は、デジタル工作機械で何ができるかを考察していました。、2001年にインドの農村にあったビギャンアシュラムという学校を訪れました。辺境で豊かに生きるための、農作業や水の浄化や溶接などのサイエンステクノロジーを教える学校です。そこでは、人が生きるためにテクノロジーがあるとニール教授が感動し、ここにデジタル工作機があれば、もっとすばらしいことができるのではないかと考え、工作機器を導入したのがFabLabの始まりのひとつです。
現在、世界50カ国200カ所に広がっています。ロシアでは国策として、100カ所作ると謳っています。アメリカでも、1都市に1FabLabという構想があります。バルセロナではFabCityを掲げていて、大きなうねりが生まれています。
── 日本では、関内以外に、どのような広がりを見せていますか?
日本には、ここ関内と渋谷、鎌倉、つくば、仙台、北加賀屋にあります。全て性格が違います。鎌倉はハンドクラフトの職人がたくさんいるので、教育とつなげて、ものづくり教育をしています。渋谷はビジネス寄りで、企業とコラボして可能性を探索しています。北加賀屋はアーティストが主体的になり、居住して制作活動をしています。仙台は、新しい産業としての期待を背負い行政が実験的に運営しています。
FabLabは、教育はもちろん、産業を作ることから自己表現まで、色々なことに使えます。大きな特徴は、国際的なネットワークがあり、各FabLabがつながっていることにあります。アムステルダムとインドネシアのFabLabが共同で義足を作る、鎌倉のFabLabでできた皮のスリッパをケニアのFabLabに提供して現地の雇用を創出するなど国を超えた動きが生まれています。日本のエンジニアがフィリピンに行って、FabLabを盛り上げようというプロジェクトもあります。
── 日本におけるFabLabは、自分の作りたいものを作るという自己実現のイメージが強いですが、海外のFabLabは国策であったり、事業創造であったりしますが、日本のFabLabはどういう方向性を目指していますか?
先進国は、物があふれていてFabLabがなくても生きていけます。そのため日本でのFabLabでの「ものづくり」は自己実現に重きが置かれています。
反面、途上国では、課題が明確な分、ニーズも明確で、課題解決のための「ものづくり」が主体的になっています。
もともとMITが発祥なので、教育の側面も強いです。アメリカやロシアなどは、科学技術振興することによって、将来的な国力に繋がるという長期的な展望もあります。
ちょうど今年の9月に、日本でFabLab会議がありました。そこで話していたこととして、将来的には、産業はなくなるのではないか?という議論があった。例えば、今ある椅子は、実在しない最大公約数の人を想定して設計、製作しているが、パーソナルファブリケーションが広まれば、あなただけの「ものづくり」になるので、自分の側のローカルな経済が変わっていくのではないか?大量生産の産業は必要なくなるのではないか?という話がでました。
また、ものがあふれている日本では、多くの人が「何を作りたい?」と聞かれると困ってしまうのではないかと思います。作りたいものは明確に無いけど、多くの人との対話を通じて課題を発見して、解決策を作っていくという方向性があると思います。
フューチャーセッションで課題を話し、作りたいものをFabLabで作るという連携ですね。
── パーソナルファブリケーションは、個人のものを作るというイメージが強かったですが、社会のためになるものを作るという方向に変わっていくということでしょうか?
他の国では、そういう事例が出始めています。
1人の革職人が、それまで手作業でやっていたものをFabLabに持ち込み、レーザーカッターを使い、より安全に簡単に皮を加工するという話がありました。この視点は、日本でもそのまま活用でき、例えば現在障がい者の方が作業されている地域作業所に応用すれば、より高品質のものをより安全に作業することができるので、より高賃金の新たな仕事を生み出す可能性もあります。
認知症のお父さんとためにお薬カレンダーを作った人がいて、その製品を薬剤師さんが発見し広げたことで、今ではアマゾンでも販売しています。
── 1人では創れないものをみんなで創る、コミュニティで活用するという広がりに、FabLabの可能性を感じます。
FabLabが持っているのは、人的ネットワークです。まさにインターネットのようなもの。
統一的なポータルやデータベースがあるわけではなく、FabLabは人と人で繋がっています。先ほどの鎌倉とケニアの例は、FabLabを巡っている1人の旅人がつなぎました。国内だけでなく海外に向けてもオープンになっています。
1人のために作ったものが、世界に普及していく可能性がある。
FabLabはあくまでも場なので、周りにいるコミュニティがどういう場にするかにもよりますが、利己的なものと利他的なものが融合していく場としての可能性も感じています。
自分でつくることの本当の意味は、社会との関わりをつくるということ。自分のためだけに「ものづくり」していると片手落ちで、自分がつくったものが、どう社会と関係を結ぶのか、という視点がこれからますます重要になってくると思います。
プロフィール
瀬戸 義章(せとよしあき):作家・ジャーナリスト。FabLab関内広報担当。不用品のリユースサービス「エコランド」の広報に携わった後、2010年11月から世界のリユース・リサイクル・ゴミ事情を発信する「ゴミタビ」を実施。東南アジア7カ国を巡った記録を「『ゴミ』を知れば経済がわかる」(PHP研究所)として発刊。日本に帰国した矢先に東日本大震災が発生。東北の復興支援とゴミの関係をリポート。現在は、東ティモールの貧困地域に格安運送サービスを実現するプロボノチームtranSMSに携わる。
フューチャーセッションも対話して終わりではなく、アイデアを具現化、見える化し、共感する人を増やすために、即興劇やサービスシナリオを描くなどの「プロトタイピング」を重視しているが、その精度を高めるに、FabLabと連携するのが良いのではないかと考えている。
そこで今回は、先月オープンしたばかりのFabLab関内の広報担当の瀬戸さんに、FabLabの思想や目指す未来について伺った。
── まずはFabLabの全体像、歴史的な背景についてお教えください。
FabLabは、デジタル工作機械(3Dプリンタやレーザーカッターなど)を使って、誰もが工作できるようになるためのオープンな施設です。
職人技とまではいかなくとも、ある程度質の高いものができます。例えば、MITには飛行機のエンジンが作れるような3Dプリンタがあります。
そもそもは、MITのニール・ガーシェンフェルド教授がインドに作った施設から始まります。
彼は、デジタル工作機械で何ができるかを考察していました。、2001年にインドの農村にあったビギャンアシュラムという学校を訪れました。辺境で豊かに生きるための、農作業や水の浄化や溶接などのサイエンステクノロジーを教える学校です。そこでは、人が生きるためにテクノロジーがあるとニール教授が感動し、ここにデジタル工作機があれば、もっとすばらしいことができるのではないかと考え、工作機器を導入したのがFabLabの始まりのひとつです。
現在、世界50カ国200カ所に広がっています。ロシアでは国策として、100カ所作ると謳っています。アメリカでも、1都市に1FabLabという構想があります。バルセロナではFabCityを掲げていて、大きなうねりが生まれています。
── 日本では、関内以外に、どのような広がりを見せていますか?
日本には、ここ関内と渋谷、鎌倉、つくば、仙台、北加賀屋にあります。全て性格が違います。鎌倉はハンドクラフトの職人がたくさんいるので、教育とつなげて、ものづくり教育をしています。渋谷はビジネス寄りで、企業とコラボして可能性を探索しています。北加賀屋はアーティストが主体的になり、居住して制作活動をしています。仙台は、新しい産業としての期待を背負い行政が実験的に運営しています。
FabLabは、教育はもちろん、産業を作ることから自己表現まで、色々なことに使えます。大きな特徴は、国際的なネットワークがあり、各FabLabがつながっていることにあります。アムステルダムとインドネシアのFabLabが共同で義足を作る、鎌倉のFabLabでできた皮のスリッパをケニアのFabLabに提供して現地の雇用を創出するなど国を超えた動きが生まれています。日本のエンジニアがフィリピンに行って、FabLabを盛り上げようというプロジェクトもあります。
── 日本におけるFabLabは、自分の作りたいものを作るという自己実現のイメージが強いですが、海外のFabLabは国策であったり、事業創造であったりしますが、日本のFabLabはどういう方向性を目指していますか?
先進国は、物があふれていてFabLabがなくても生きていけます。そのため日本でのFabLabでの「ものづくり」は自己実現に重きが置かれています。
反面、途上国では、課題が明確な分、ニーズも明確で、課題解決のための「ものづくり」が主体的になっています。
もともとMITが発祥なので、教育の側面も強いです。アメリカやロシアなどは、科学技術振興することによって、将来的な国力に繋がるという長期的な展望もあります。
ちょうど今年の9月に、日本でFabLab会議がありました。そこで話していたこととして、将来的には、産業はなくなるのではないか?という議論があった。例えば、今ある椅子は、実在しない最大公約数の人を想定して設計、製作しているが、パーソナルファブリケーションが広まれば、あなただけの「ものづくり」になるので、自分の側のローカルな経済が変わっていくのではないか?大量生産の産業は必要なくなるのではないか?という話がでました。
また、ものがあふれている日本では、多くの人が「何を作りたい?」と聞かれると困ってしまうのではないかと思います。作りたいものは明確に無いけど、多くの人との対話を通じて課題を発見して、解決策を作っていくという方向性があると思います。
フューチャーセッションで課題を話し、作りたいものをFabLabで作るという連携ですね。
── パーソナルファブリケーションは、個人のものを作るというイメージが強かったですが、社会のためになるものを作るという方向に変わっていくということでしょうか?
他の国では、そういう事例が出始めています。
1人の革職人が、それまで手作業でやっていたものをFabLabに持ち込み、レーザーカッターを使い、より安全に簡単に皮を加工するという話がありました。この視点は、日本でもそのまま活用でき、例えば現在障がい者の方が作業されている地域作業所に応用すれば、より高品質のものをより安全に作業することができるので、より高賃金の新たな仕事を生み出す可能性もあります。
認知症のお父さんとためにお薬カレンダーを作った人がいて、その製品を薬剤師さんが発見し広げたことで、今ではアマゾンでも販売しています。
── 1人では創れないものをみんなで創る、コミュニティで活用するという広がりに、FabLabの可能性を感じます。
FabLabが持っているのは、人的ネットワークです。まさにインターネットのようなもの。
統一的なポータルやデータベースがあるわけではなく、FabLabは人と人で繋がっています。先ほどの鎌倉とケニアの例は、FabLabを巡っている1人の旅人がつなぎました。国内だけでなく海外に向けてもオープンになっています。
1人のために作ったものが、世界に普及していく可能性がある。
FabLabはあくまでも場なので、周りにいるコミュニティがどういう場にするかにもよりますが、利己的なものと利他的なものが融合していく場としての可能性も感じています。
自分でつくることの本当の意味は、社会との関わりをつくるということ。自分のためだけに「ものづくり」していると片手落ちで、自分がつくったものが、どう社会と関係を結ぶのか、という視点がこれからますます重要になってくると思います。
プロフィール
瀬戸 義章(せとよしあき):作家・ジャーナリスト。FabLab関内広報担当。不用品のリユースサービス「エコランド」の広報に携わった後、2010年11月から世界のリユース・リサイクル・ゴミ事情を発信する「ゴミタビ」を実施。東南アジア7カ国を巡った記録を「『ゴミ』を知れば経済がわかる」(PHP研究所)として発刊。日本に帰国した矢先に東日本大震災が発生。東北の復興支援とゴミの関係をリポート。現在は、東ティモールの貧困地域に格安運送サービスを実現するプロボノチームtranSMSに携わる。
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