「居続けたくなる温泉地」って、どんなところなんでしょう?
そんな問いについて考える今回の未来勉強会。
セッションはゲストスピーカーである大沼伸治さんによるインスピレーショントークからスタートしました。
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大沼さんは100年以上続く治湯の宿・旅館大沼の五代目湯守です。
経営的な苦難を乗り越えて、大沼さんはこれからの温泉地に必要な「湯治の7つの鍵」と「湯治の3つのステップ」を考えたのだそう。
ただゆったりと過ごせば、それでいい──という湯治の場を、発展させるために必要な要素とはなんでしょうか。
大沼さんと一緒に、みんなで楽しく考えてみました!
自然豊かでエネルギーあふれる鳴子温泉郷
大沼さんは、1200年の歴史を誇る鳴子温泉郷にある湯治の宿・旅館大沼の五代目湯守。旅館大沼も100年以上の歴史を誇ります。
代々、湯守の家系に育った大沼さんは、幼少期の頃から常にお客様と同じ屋根の下で暮らしてきたそうです。
大沼さん)
わたしは生まれてこのかた旅館に住んでいます。旅館には常にお客さんがいます。なので家族だけで暮らした経験がありません。長いと5年くらい滞在しているお客さんもいまして。“自分の家にいつ帰るのかなぁ……”なんて思っていたら、震災が起きて、それで帰っていったなんて人もいるくらいです。
大沼さんが暮らす旅館大沼は宮城県の北西部にあります。アクセスは東京から新幹線を使って約3時間。観光地ではあるものの牧歌的な自然豊かな自然に恵まれた場所です。
鳴子温泉郷は山形県と秋田県に隣接する土地柄で森林約90%の山間地であること、火山の活動によってできたカルデラの中にあること、近頃はインバウンドの外国人客が増えていること、などについて大沼さんはお話してくださいました。
大沼さん)
鳴子温泉郷はカルデラにあるものですから地熱がすごい。日本で4番目にできた地熱発電所があって、旧鳴子町内の電力をすべてまかなえるくらいの電気をつくっています。また、日本人が初めて自力でつくったダムがあり、そこで水力を利用した発電も行われています。
鳴子温泉郷は、日本の天然源泉10種類の泉質のうち8種類の泉質を保有しているのだそうです。自然を感じながら、そして、大地から湧き出すエネルギーの循環も感じられる、そんな場所が鳴子温泉郷なのです。
湯治の宿に生まれたことにはきっとなにか意味がある
旅館に生まれた大沼さんですが、昔は湯に興味がなかったそう。跡継ぎという立場から自然に大学で観光学などを学び、卒業後は伊香保の旅館での修行も体験しました。
大沼さん)
修業を終えて旅館大沼に戻ってきたわたしは愕然としました。規模が小さいし元気もないし、このままでは将来どうなってしまうのだろうという有様だったからです。
そんなおり、大沼さんの妹さんが病気に罹ってしまいます。
大沼さん)
悪性腫瘍でした。不治の病です。妹は闘病の果てに亡くなりました。家族を亡くしたショックは大きなものでした。
そのとき私は考えたのです。どうしてうちの家系は100年も治湯の温泉宿をやり続けてきたのだろうかと。人々を癒す湯治の宿──私はこれをもう宿命だと受け止めることにしました。妹の病と私たちが代々やってきた湯治というものがリンクして、私は本気で事業に取り組もうと心を決めたのです。
湯治が持つ力「湯治の7つの鍵」とは!?
湯治に取り組むなか、大沼さんはその力を「湯治の7つの鍵」を見つけ出しました。
大沼さん)
第1の鍵は「転地効果」、第2の鍵は「地物適量食」、第3の鍵は「長期滞在」、第4の鍵は「反復温泉浴」、第5の鍵は「軽運動」、第6の鍵は「交流:コミュニティ」、第7の鍵は「自然との共生」です。
「転地効果」とは、たとえば都会などからいらっしゃるような場合、日常とは異なる環境で心身がリフレッシュされることです。地物適量食は、長期滞在することでその土地のものを適度な量で取り入れることですね。観光で行くとつい食べ過ぎることがあるかもしれませんが、長期滞在する場合、胃腸に負担をかけない量の食事にすることはとても大事です。
大沼さんは、湯治の宿を運営していくためにもっとも大切な要素は第6の鍵「交流:コミュニティ」だと言います。社会が複雑化して、人間関係も複雑になっている今の時代こそ、それぞれにとって昔の湯治場のような「安心・安全な場」が必要なのです。
大沼さん)
私が見ていて思うのは、湯治には3つのステップがあるということです。一つ目が「放電」であり、二つ目が「充電」、そして三つ目が「発電」です。
医療の場合、悪いところがあるとそこを治療しようとしますよね。湯治は違います。まずは「放電」してあげるのです。たとえば、膿んでいるところがあれば、まずは膿を出すことからはじまります。抑え込むのではなくまずは悪いものが出るように働きかけるのですね。だから、過程としてはいったん悪化したかのようにも見えます。
まずは不要なものを放つと(放電)、そこに新たに入る余地ができる(充電)。そして新しく取り込んだものを糧として前に進んでゆく(溌電)。それが「湯治の3つのステップ」なのだそうです。
温泉のまわりに豊かな資源が広がることに気づいた
大沼さんはそんな「湯治の7つの鍵」や「湯治の3ステップ」という発想から、「ソーシャルオアシス」という名称とともに、旅館大沼にゆっくりと滞在していただけるようさまざまな場をつくり出しています。
たとえば、東日本大震災後に、鳴子で二次避難していた被災者とともに読書会を開いたロバートキャンベル氏との「『温泉と読書』プロジェクト」。
または、農を楽しみながら治湯をする、農のあるバカンス「農バカ」。
ほかにも「農ドブル」、「板倉マイスター講座」「コワーキングスペースの運営」など、幅広くバリエーションに富んだ活動が行われてきました。
「どうしてこんなふうにいろんな取り組みができるのですか? こんな取り組みができない温泉地たくさんあると思うのですが……」
勉強会の参加者からはこんな質問がありました。
大沼さん)
温泉の経営だけでうまくいっていたら、こんなことは考えなかったかもしれません。でも、すでに申したとおり、旅館大沼や地域の状況は、未だにあまりよいものとは言えません。そんなときふと見わたすと、まわりには山や畑が広がっていて。これをなんとか活用できないかなぁと思っていると、不思議と「山や畑を使ってなにかやりたい」という人と出会うようになってきまして。そんなふうに広がってきています。
居続けたくなる温泉地を考える大喜利がスタート!
大沼さんからのインスピレーショントークが終わると、参加者同士のセッションの時間です。
みんなで対話をして学びを深めていくための問いかけは「居続けたくなる温泉地、なにがある?」というもの。
でも、その問いについてグループごとに対話をするのではありません。二つのチームに分かれて、大喜利形式でアイデアを発表し合う形式がとられました。
アイデアを思いついた人はA4用紙にそのアイデアを書きとめて、ファシリテーターの有福さんからの「居続けたくなる温泉地、なにがある?」という問いかけに続いて、アイデアを声に出して読み上げます。
「居続けたくなる温泉地、なにがある?」
「地面を掘ると金塊が出てくる!」
「居続けたくなる温泉地、なにがある?」
「仕事がある!」
「居続けたくなる温泉地、なにがある?」
「謎を解くまで帰ることができない!」
最初はちょっぴり緊張ぎみだった参加者もいろんな角度からへんてこりんな答えが飛び出していくうちにだんだんほぐれていきます。
大沼さんもニコニコと、ときには真剣にうなずきながら、ノートにメモを書きとめつつ楽しそうに耳を傾けていました。
「湯治ウィーク」についてのアイデア出しセッション!
大喜利形式でのアイデア出しセッションを終えたところで、再び大沼さんのインスピレーショントークの時間へ。
実は大沼さん、「湯治ウィーク」というイベントを企画しているそう。いつ立ち寄っても、いつ帰ってもいい。そんな一週間に、さまざまなイベントをこれでもかと詰め込んでいる企画です。
イベント期間中には、「ノルディックウォーク体験会」や「ほろ酔いウィーク」、「お酒の子守歌ライブ」、「湯市マルシェ」、「ワク涌くworkの集い」ほか、気になるイベントがずらりと企画中。なんとも賑やかな企画になりそうな気配がいっぱいです。
そんな「湯治ウィーク」についての案内が終わったら、再びセッションがスタートしました。
有福さん)
これからみなさんに対話で生み出していただきたいのは、「湯治ウィークに関わるとしたら、どんなイベントをやりたいですか?」ということ。それから「どんなイベントが行われていたら参加したいですか?」ということです。それでは、4つのグループに分かれて話し合っていきましょう!
4つのグループは、にぎやかにトーク。
ちょっぴり照れが入った大喜利の時間を経ておかげで、テーブルには楽しそうな雰囲気が満ちています。そして、対話についで話した内容をそれぞれのグループによる発表が行われました
【グループ1の発表】
せっかく湯治に来たのなら自分のやりたいことを好きにやりたいと思いました。ですから、事前に趣味などを伝えておいて、お客さん同士が趣味で繋がれる場を用意してもらえるとうれしいです。
あとは木を切って自分の寝床をつくれると楽しそう! その寝床は自分の所有物となります。もちろん、別の方が使ってもリメイクしてもよくて、そうやって寝床がいろんな人の手によって改良されていくような仕組みがあるとよいなと思いました。
【グループ2の発表】
わたしは子どものいる親ですので、地元の子どもたちの出し物などがあると楽しそうだなと思いました。屋台が出ていて、“今日のおやつ”が食べられるような。あとは、自然の中なので、みんなで大声が出せるようなイベントは楽しそうです。ほかには、マルシェで買ってきたものをみんなで料理していただいたり、足湯につかりながらライブを楽しむなんていうイベントがあってもいいなと思いました。
【グループ3の発表】
一週間連続で滞在するのは仕事柄できそうにないので、ちらっと滞在できるような仕組みになっているとありがたいなと思いました。
また、イベントは夜に開催するようにしてくれると、昼間はリモートワークで、温泉地でも仕事をして、夜にたっぷりと楽しむという時間の使い方ができそうです。
また、「湯治ウィーク」は忙しそうな印象を受けました。もう少し、なにもしない状況があってもいいのではないかと思います。温泉要素ももっと取り入れられるような気がしました。
【グループ4の発表】
わたしたちのグループは、せっかく鳴子温泉郷に行くのだから、その土地の歴史を学ぶような機会があるとよいという話がでました。「ほろ酔いウィーク」なんてイベントもあることですし、地酒を飲みながら、みんなでおしゃべりをしたり、地元のことを勉強できるといいですね!
そして最後に、発表を聞いていた大沼さんからまとめのコメントがありました。
大沼さん)
今日はみなさん本当にありがとうございました。とても勉強になりました。企画全体から温泉っぽさが感じられないとか、一週間連泊するのはハードルに感じるといった意見は参考になりました。本当は日帰りでも一泊でも構わないので、伝え方に工夫した方がよさそうですね。
また、意図的にあえてなにもしない一週間というアイデアはインパクトを感じました。せっかく来ていただくのであれば、といろいろ盛り込みたくなるのですが、あえて「何もしない」ことに価値を見いだせるのかもしれないなと感じました。
こういうイベントを動かしてみなさんの関心を高めることで鳴子温泉郷周辺の人たちもどんどん巻き込んでいきたいなと考えています。
今日は、お招きいただき本当に良かったです。ありがとうございました!
【文・井上 晶夫 / グラフィックレコーディング・中尾 仁士】
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ゲスト インスピレーショントーカー:
大沼 伸治(おおぬま しんじ)
株式会社大沼旅館 5代目 湯守 大沼 伸治氏
1200年の歴史を持つ鳴子温泉郷で、120年続く老舗湯治宿の五代目湯守。
立教大学観光学科を卒業後、伊香保温泉の宿で修業し家業を継ぐ。
15年前から日本古来の「湯治文化」を未来につなぐため、宿や地域において様々な活動を行っている。湯治(場)はソーシャルオアシスが持論。目まぐるしく変わる現代社会において、砂漠の中に湧く泉のような「場」を目指す。温泉で、暮らすように仕事をするライフスタイルも提案している。
ファシリテーター:
有福 英幸
株式会社フューチャーセッションズ
大手広告会社にて、企業のブランディングやデジタルコミュニケーションに従事。デジタルクリエイティブの新しい表現に挑戦し、CannesやOneShowなど国内外の広告賞を多数受賞。またサステナブルな社会を目指すwebマガジンを発刊、編集長として運営を手掛ける。メディアの知見を活かし、より社会的なインパクトを創出すべく、フューチャーセッションズを設立。関心領域は、エネルギー、食。
つくりたい未来:次世代が今よりもよくなる可能性を感じられる社会
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