未来を考えるきっかけを提供する「未来の兆しストーリー」として、今回から数回にわたり、オランダのジャーナリズム基金がまとめた「2025年 オランダのジャーナリズムの未来シナリオ」を紹介します。
The journalistic landscape in 2025 - four different scenarios http://www.journalism2025.com/
この未来シナリオは、ジャーナリスト、出版社、哲学者、編集長、科学者、技術者、経営者など、さまざまなセクターから総勢150名が参加した10回のセッションを通じて描かれました。
シナリオ・プランニングという未来洞察のための手法
シナリオはラテン語のscena(舞台、場面)から派生した言葉であり、時間軸に沿って場面(空間)が展開する筋書きのことです。構成要素は場面転換、意外な意図せざる物語や、驚きをもたらす情景(シーン)になります。そのため未来シナリオとは、未来の世界観を読み手がイメージできるものと言うことができます。
未来シナリオを描く手法はいくつかありますが、「未来において確実なことは、未来は不確実であること」という思想が根本にあるため、複数の未来シナリオを描くことが多いです。複数の未来シナリオを描いたあとは、さまざまな未来に適応できるように準備したり、ありたい未来に向けて変革するための行動をしたりするといった、意思決定をしていくためのツールとして未来シナリオを利用します。
「2025年 オランダのジャーナリズムの未来シナリオ」は、未来シナリオを描く手法として、シナリオ・プランニングという手法が用いられています。
シナリオ・プランニングとは、不確実な変化を生み出す深層要因を洞察し、あり得る未来への展開について複数の仮説(未来シナリオ)を立て、それらに基づいて意志決定や判断を行なうための戦略策定手法です。起源はスタンフォード・リサーチ・インスティテュート(SRI)やロイヤル・ダッチ・シェルなどの企業の経営企画部門が行なっていた手法です。
シナリオ・プランニングによる未来シナリオ作成手順には論者や流派によっていくつかの方法論がありますが、今回紹介する未来シナリオも含め、テーマを決定した後は概ね以下のようなステップで進められていきます。
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変化の兆しを集める
複数のカテゴリーを横断的に眺め、テーマに関係する未来を形作る要素である「変化の兆し(ドライビングフォースや微弱なシグナルや予測不能な出来事)」を多数発見する -
未来シナリオの分岐点を発見する
どのような未来になるか不確実性が高く、テーマに対する影響力(インパクト)が大きい変化の兆し群から、「シナリオの分岐点」を抽出する -
未来シナリオを描く
分岐点によって異なる複数の世界観をストーリーとして表現する
「2025年 オランダのジャーナリズムの未来シナリオ」の分岐点
150人とのセッションを通じ、「2025年 オランダのジャーナリズムの未来シナリオ」では、未来のジャーナリズムに影響の大きい未来シナリオの分岐点として、次の2つの軸を発見しました。
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テクノロジーの受容(acceptance of technology)
急進的(radical) or 不承不承(reluctance)? -
社会的信頼(social trust)
自分でやる(do-it-yourself) or 自分のためにやってもらう(do-it-for-me)?
1つ目の軸は、私たちがテクノロジーをどの程度受容しているかの不確実さについて表現しています。テクノロジーは進化しますが、進化のスピードや私たちの適応度は未知数です。また、新たなテクノロジーを私たちは積極的に使うのでしょうか。それとも使わざるをえないのでしょうか。
2つ目の軸は、さまざまな組織(政府、NGO、政党、メディア、企業など)に対する信頼レベルの不確実さについて表現しています。世界中の政府や企業は、市民や消費者やボトムアップの活動から変化へのプレッシャーを強く受けています。もしこの傾向が続くなら、市民が自分たち自身の手で必要なものを調達する社会となるかもしれません。しかし、大きな組織が市民の信頼を再び取り戻し、社会で重要な役割を継続するかもしれません。
これら2つの軸の組み合わせにより、4つに分かれた未来シナリオが現れてきます。
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Wisdom of The Crowd(急進的 + 自分でやる)
早熟な発明家、スタートアップ、仮想コラボレーションに社会が支配された世界 -
A Handful of Apples(急進的 + 自分のためにやってもらう)
一握りのインターネットの巨人が経済・社会・政治の議題を決定する世界 -
The Shire(不承不承 + 自分でやる)
思慮深さ、小さな思考、自力本願によって制約された世界
※ シナリオ名をホビット庄と訳した方がイメージつく人がいるかもしれません -
Darwin’s Game(不承不承 + 自分のためにやってもらう)
影響力ある組織が、自分たち自身を絶えず再創造している世界
次回は、これら4つの未来シナリオによって描かれる「2025年 オランダのジャーナリズムの未来」を紹介していきます。
参考図書
- 紺野登(2010)『ビジネスのためのデザイン思考』 東洋経済新報社
- ウッディー・ウェイド(2013)『シナリオ・プランニング――未来を描き、創造する』 英治出版
Photo credit: Darek Morys via tookapic / Tookapic license
■未来の兆しにご興味のある方は
https://goo.gl/OMyJiw
文/筧 大日朗(OUR FUTURESディレクター)
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