OUR FUTURES

前回に引き続き、オランダのジャーナリズム基金がまとめたテクノロジーの受容と社会的信頼の2軸によって分かれる4つの未来シナリオのうち、「(テクノロジーの受容は)不承不承 + 自分のためにやってもらう」で現れる「Darwin’s Game」のシナリオを紹介します。

The journalistic landscape in 2025 - four different scenarios http://www.journalism2025.com/


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Darwin’s Game

2025年、この世界の概要

政府機関とメディアは透明性と市民からのアクセスのしやすさを高めるだけでなく、市民との対話を増やすことで信頼を取り戻しています。そのためメディアは、視聴者や購読者が急激に減少することを防ぐことができました。

政府がより効率的に仕事をすることに市民が慣れた社会では、市民参加型の社会は一部しか実現されていません。


2025年の市民・政府・企業の姿

情報選定をジャーナリズムに頼る市民

インターネット上の大量の情報の中から何が良いもので何が悪いものなのかを区別することが難しくなっているため、多くの市民は生活が混乱していると感じています。そのため市民はジャーナリズムに対し、監視人としての役割よりも解決策を提案したり議論のためのフォーラムを提供したりするといった役割の方が、より重要であると考えるようになっています。


市民からの信頼を取り戻した政府

政府機関は透明性を高め、市民との対話を増やすことで信頼を取り戻しています。また、業務の効率化が進み、市民に頼ることなくより多くの仕事ができるようになっています。


成長するスマートテレビ産業

テクノロジーの発展のスピードは減少し、新しいデバイスを開発することよりも、既存のテクノロジーの最適化に焦点が移っています。

テレビ、スマートフォン、ラジオは日々の生活で重要な役割を果たし続けていますが、スマートテレビは家の中にあるニュース、映画、音楽、YouTubeなどのメディア拠点としてより重要な存在になっています。


2025年のジャーナリズムの姿

情報過多をやわらげる存在としてのジャーナリスト

ジャーナリストは不正の暴露に焦点をあてるだけでなく、問題に対する解決策や指針や解釈を提示したり、議論をファシリテーションしたり、市民との協働を活発にしたりすることを支援することで、市民が感じている大量の情報によるストレスをやわらげることが重要な仕事になっています。メディアはますます読者や視聴者に耳を傾け、積極的に彼らと活動するようになっています。


ジャーナリズムに対して透明性を求める市民

ジャーナリズムはもはや一方通行のものではなく、透明性はジャーナリズムに対する絶対的な要求になっています。このため、オンライン記事の原資料やインタビューの完全な記録を、市民はすぐにダウンロードできるようになっています。


減少するインターネット企業の影響力

FacebookやGoogleのような大企業は、デジタル・コンテンツの流通で重要な役割を果たし続けています。しかしニュースになるような人は、FacebookやYouTubeだけでなく、彼ら自身の独自チャンネルを通じて制作物を配信しているため、流通を独占するまでには至っていません。

また、市民はソーシャルメディアを信頼できない情報源として見なすようになっています。災害や大事件のときに実際に何が起きているのかを知りたい場合、市民は最も信頼しているメディアによる情報を見に行くようになっています。


変化への道を模索し続けるメディア

変革に成功したジャーナリズムが登場していますが、すべての組織が生き残れたわけではありません。新聞は全国紙がひとつあるだけで、地方紙はほとんどありません。一方で、地元や地域に焦点をあてたウェブサイトは全国に存在します。オランダで活躍するジャーナリズムのスタートアップが誕生し、伝統的なメディアと共存し協調しています。

この世界では、少数の人々しかニュースにお金を支払う意思がありませんし、ほとんどの人は無料コンテンツで満足しています。高品質なニュースや調査報道は、お金を支払う意思がある少数の人々向けの商品となっています。そのためメディアは、ウェブショップやスポンサー付きの投稿やビデオで追加収入を得るようになっています。ニュースのアンバンドリングは継続し、新聞全体を購入するのではなく、記事やビデオごとにお金を支払うことができるようになっています。

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「2025年 オランダ・ジャーナリズムの未来シナリオ」の4つの未来シナリオのうち、今回紹介する未来シナリオが最後となります。前回までに紹介した未来シナリオはジャーナリズムにとっては全体的に厳しい見立てとなっていました。今回も楽観的ではないですが、他の未来シナリオ(1. Wisdom of The Crowd、2. A Handful of Apples、3. The Shire)に比べて変革に成功したジャーナリズムの姿が描かれているのが注目すべき点だと思います。

これまでに4つの未来シナリオを紹介してきましたが、未来シナリオは読んで終わるのではなく、これら4つの未来に適応できるように準備したり、4つのうちの一つをありたい未来ととらえて変革するための行動を起こすといった、意思決定をしていくためのツールとして活用していくことを目的としています。そのため、シナリオプランニングの真の活用はここからです。

あなたはどの未来がやってくると思いますか?また、どの未来に最も共感しますか?

これからどんな変化が必要ですか?

4つの未来が出現するとしたら、今、私たちは何ができて、何をなすべきなのでしょうか?


■未来の兆しにご興味のある方は
https://goo.gl/OMyJiw

文/筧 大日朗(OUR FUTURESディレクター)


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